多くの社会インフラや産業分野で不可欠な存在となっているのが、制御システムや計装機器といったOTである。OTは、生産現場や発電所、交通システムなど実際にモノを制御・運用する場面で使われる技術の総称だ。たとえば上下水道や電力、ガス供給、石油化学プラント、製造工場、さらには鉄道や航空などの輸送インフラに至るまで、多様なシステムで導入されている。ここでは、OTの意義と役割、そして従来とは異なるセキュリティ対策の必要性について考察する。OTは、その歴史をたどれば半世紀以上前にさかのぼる。
かつては閉ざされたネットワーク内、例えば現場単位ごと、工場内の専用ネットワークだけで運用されていた。そのため、外部からの不正アクセスやサイバー攻撃への懸念が、情報システム、いわゆるIT分野ほど顕在化していなかった。しかし、技術の進歩や業務効率化、老朽設備の刷新などを背景に、OT機器とITシステムが統合されるケースが増えてきた。たとえば、生産データの取得や遠隔監視、人手の省力化といった目的でITネットワークにOTの情報を連携させる事例が目立つようになった。こうした変化は、社会インフラの堅牢性を支える上で新たな課題も生んでいる。
それがOT分野におけるセキュリティリスクの高まりである。ITと違い、OTは24時間365日の連続運用やリアルタイム制御が求められる。そのため情報システムと同じようなメンテナンスのための一時停止が困難である。また、システム停止や不具合が人命や社会基盤に及ぼす重大な影響を持つケースも少なくない。実際、国内外でOTインフラを標的としたサイバー攻撃による被害例が増加傾向にある。
制御装置が乗っ取られることで、操業停止やサービス中断、さらにはエネルギー供給の途絶など、社会生活の根幹が脅かされる例もみられる。加えて、OT領域の特徴として、長期的な稼動を前提とした専用機器で構成される点が挙げられる。多くの機器は導入後十年から二十年以上使われ続け、最新のセキュリティパッチが提供されていない場合もある。そもそもファームウェアやソフトウェア更新が容易でない設計だったり、認証機能や通信の暗号化といった情報セキュリティ上の基本要件を満たしていない場合もある。それゆえ、不正侵入への備えや脅威への対応に遅れが生じやすい。
このような背景から、OT分野独自のセキュリティ対策が不可欠になっている。まず求められるのは、自組織にとって最も重要なシステムやネットワーク資産を把握することである。従来は工程図や配線図といった紙ベースだったインフラ情報を、デジタル化しリスク評価を進めるところから始まる。そして、OT機器へのアクセスルートや、脆弱なポイントの洗い出しが重要だ。ITシステムで主流のウイルス対策ソフトやファイアウォール導入だけでは不十分なケースが多いため、ネットワーク分離や多層防御、さらには外部からの物理的アクセス管理も伴って行う必要がある。
また、現場の運用とセキュリティ対応を両立させるためには、運転に影響しないよう慎重を要する点も特徴だ。セキュリティテストや監視ソリューションを導入する際も、製造ラインやインフラ運用が中断されないよう事前の検証が欠かせない。定められた運用ルールや現場での手順書を整備し、災害時や不審な兆候が見られた場合の通報体制も重要視される。さらに、OTインフラを持続的に守るためには組織横断的な連携も必要不可欠である。従来、OTは製造や運転管理部門が、ITは情報システム部門が担うことが多かった。
しかし、今後はOTとITの専門人材どうしが相互に知識を共有し合い、協同して対策を進める体制が求められている。例えばサイバー攻撃時の初動対応や復旧フローについても、シナリオベースで組織訓練を重ねておくことが重要だ。一方で、セキュリティ強化には予算や人材、技術の面で様々な課題が立ちはだかるのも現実である。しかし社会インフラの安定運用を支える以上、堅牢な防御体制の整備は社会的責任である。少ない予算でも段階的なリスク低減と、被害拡大の抑止策を講じていくこと。
そのためにも最新の脅威動向を継続的に把握し、機器のリプレースや運用改善も視野に入れた総合的な取組を着実に進めていくことがOT分野では強く求められている。OTの安全と安定運用は、誤作動や外部からのハッキングを防ぐとともに、利用者ひいては社会の安全や暮らしを守る要として重要な存在である。効率と安全、そしてインフラの持続的成長を両立させるためには、これまでにない視点でのセキュリティアプローチが不可欠だ。官民や業界横断での知見集約や実用的なガイドライン整備をはじめ、積極的な人材育成も含めて広い視野での対応が今求められている。今後OTインフラを支える新技術はますます進化するだろうが、その発展とともにセキュリティも一歩先を走り続ける必要がある。
OTとセキュリティ、そしてインフラの未来を守るための挑戦は、これからますます重要な意義を持つようになる。制御システムや計装機器などのOT(オペレーショナルテクノロジー)は、社会インフラや産業分野に不可欠な存在として広く活用されている。かつてはOTが閉ざされた独立ネットワーク内で運用されていたため、外部からのサイバー攻撃をあまり想定せずに済んでいた。しかし、近年はITシステムとの連携や遠隔監視の導入など、利便性や効率化を目的とした統合が進み、新たなセキュリティリスクが顕在化している。OTは連続運転やリアルタイム制御が求められるため、ITのようなメンテナンスが難しく、システム停止が社会生活に重大な影響を及ぼす可能性も高い。
また、長期使用される専用機器が多く、セキュリティの基本要件を満たしていない場合も多い。こうした状況を踏まえ、資産把握や脆弱箇所の特定、多層防御やネットワーク分離など、OT特有の対策が不可欠となる。導入時の運用影響への配慮や、事前検証、現場手順の整備、部門横断的な連携も重要な課題である。限られた予算や人材という制約下でも段階的なリスク低減を進めることが求められており、最新動向の把握や人材育成などを含めて、OT分野ではこれまでにない視点のセキュリティ対策が一層重要になっている。